vol.3「彼女と〈読書〉と角田光代」
鹿児島市で読書会を中心としたイベントを企画する女性3人のユニットがREADのお願いをしたところ、「ランチを兼ねてぜひ」とのこと。さすが「read,eat,and drink」をコンセプトにしているだけあるなあ、と感心しつつ、普段一人ではまず行かないようなおしゃれなお店でのインタビューと相成りました。当初は3人全員にきていただく予定でしたが、当日どうしえも都合がつかないということで、ミホコさん、チサトさんのお二人にお話を聞くことに。インタビュー、というよりはREADさんの読書会に混ぜてもらったような感じで、『紙の月』を課題本にして、彼女たちの読みを語ってもらいました。
取材日:2016年12月 場所:アンボワーズ*1 文/編集:ふくちあつし
女の人はみんな理想の自分を買いたいんだなあ
——簡単に自己紹介をお願いします
ミホコ:主婦です!四月に鹿児島に来たばっかりです
チサト:来たばっかりなんだよね、実は。何年も付き合ってるような気がするけど
——チサトさんは?
チサト:私はすぐそこで英会話教室をやってます
——普段はどんな本を読むんですか?
ミホコ:基本は小説です。国内外半々くらいずつですかね
チサト:でも詳しいよね、外国の本のことも
——チサトさんもそんな感じですか?
チサト:私は中学生のときに読んだ『こころ』*2から始まってるんですけど、それまでは全然読んでなかった。読書感想文で読んだのね。なんで中学生に『こころ』を読ませるのかわかんないけど。まあそれですごいハマって、そこから小説の裏に乗ってる本の名前を順に読むようになりました
——角田光代さんを最初に読んだのはいつなんですか?
チサト:ごめんなさい、あんまり読んでなくて……。でもあのレシピのついてる、『彼女の献立帳』とかは好きで何冊か持ってるけど、全然詳しくない。これからです
ミホコ:これからだね〜
——今日は一応READの読書会と同じような感じで二人に『紙の月』を中心に話をしてもらえたらと思ってるんですが
チサト:えー、でも普段の読書会はお酒が入ってるから(笑)
——ちなみにぼくはまだREADの読書会って行ったことないんですが、どんな感じなんですか?
ミホコ:ほんと普通の読書会よ
チサト:課題本決めて、どう思ったかみたいなところから入って、そこから奥深く入っていく感じかなあ
——それじゃあ早速ですが、どう思ったか、教えてもらえますか
ミホコ:いろんな人物がリカさんを中心に出てくるけど、女の人はみんな理想の自分を買いたいんだなあ、って読んでて思いました。リカさんも欲しかったのはコウタじゃなくて理想の自分なんだろうなあって。でも理想の自分がどこかににいると思ってる時点でまだ甘いわよって気はする。でも最後のところで角田さん的にはリカがそこから抜け出したって書いてるのかなって思ったの
——抜け出した。でも彼女は国境を超えれてはいないんですよね
ミホコ:超えたらむしろダメだった気がするのね、私としては。超えたらまだ追いかけ続けてる。国境を超えたらまた、いまの自分は一部でしかなくて残った自分を探しにいってしまうのかなと思うんだけど、そこであえて踏みとどまって捕まる道を選んだ彼女は、自分を受け入れたのかなっていう。まあいい加減やめろよって話なんだけど
チサト:私は読んだ時に、すごい極悪人が出てくるわけでもなく淡々と進んでいて、全体的に魅力的な人物が一人もいないってことに気付いて。女としての部分はわかるところもあるんだけど
ミホコ:ところどころわかるところはあるんだけど、誰か一人に感情移入はできなかったかな
チサト:コウタもすごい魅力的な男ってわけじゃないじゃないですか
ミホコ:割と、ダメだよね
チサト:貧乏大学生で、夢追っかけててみたいな。旦那さんにしても、暴力振るうわけでもない、お金を渡さないわけでもない。けど、リカにとってはいつも違和感のあるような発言をしていて。旦那さんが自分より上に立ちたいっていうのに違和感があるけど、でも自分も結局コウタに同じようなことをしてるよねっていう、そこの矛盾。一緒じゃないかって思ってしまう
——男性からのマウンティングっていうのは角田さんの小説のひとつのパターンですよね。一人の女性としてお二人はそのへんどう感じますか
ミホコ:実際そういう思いをしている友達はいるよね
チサト:口に出さなくても常に褒められたい願望が大きい気がする、男の人って。「がんばってるね」とか。ちなみにふくちさんって鹿児島出身?
——ぼくは群馬ですよ
チサト:あ、そうなんだ。だからなんか鹿児島男子っぽくないなと思った
——鹿児島男子ってどんななんですか?
チサト:鹿児島の人と結婚した地元の友達の話とか聞くと、びっくりすることはある。そんなこと言うのって
チサト:私はすごく違和感があったシーンがあって、コウタに大学ってどうなってるのって聞くところ。コウタはもう辞めてて「ほんと僕に興味がないんだね」って答えるんだけど、そこにすごく違和感があって。これだけ貢いでるのに
——それはどっちに対しての違和感ですか
チサト:コウタに対してなんだけど、そもそもそこに最初から愛はなかったのかなっていう。これだけ貢いで愛情表現してるつもりだったけど、結局リカがコウタにとってお祖父ちゃんと同じような存在になっちゃったのかなっていう。コウタはお祖父ちゃんにすごい嫌悪感をもってるじゃないですか。お金を持ってるけど愛がなくてみたいなところに反発してて。だからそういうところに被ってしまったのかなって、後半のリカが。それで結局「興味がないんだね」って言っちゃう、その心理にゾッとした。「何この子??」って
ミホコ:私はリカのほうにゾッとしたかな
——リカが旦那さんが自分に興味を持ってないと思い込んでいることも反復してますよね。いま「貢いだのに」って言い方をされていましたが、「貢いだ“から”」愛情が損なわれてしまったって考え方もできる気がしたんですけど
ミホコ:うーん、それもあるかもね
チサト:最初は愛情を持ってたわけで、やっぱりお金のせいかなとも思うよね
ミホコ:お金をあそこで渡していなければどうなっていたんだろうね
——最初にコウタが愛情を持ってたのかっていうところからちょっと僕は疑問で。これって若さ来る性欲じゃないんですかね
チサト:それは私は違うと思う
ミホコ:どうなんだろうね。自分の世界にはいなかった人だから、まぶしかったんだろうとは思うけど、それが愛なのかって言われると。自分を違う世界に連れてってくれる人って思ったのかなって気はしたんだけど
——リカがコウタに惹かれたのも同じですよね。自分とは違う世界の人間だって
ミホコ:ただ彼女は、学生時代にボランティアで外国の子供にお金をいっぱい送っていたのとやってることはそんなに変わんないような気はする
チサト:お父さんお母さんのお金をそのまま送金してたわけだし
——横領して男に貢ぐのとそんなに変わらないと
チサト:そこで優越感が発生してる
——学生時代のリカについて語られる情熱的な姿と、本人の淡々としたトーンの語りにぼくはすごく違和感があったんですが、どうでした?
ミホコ:やっぱり語っている木綿子の目が彼女を美化しすぎている感はあるよね
チサト:してるよね、やっぱ憧れの対象だったから。でもどうして彼女はそんなにリカに憧れたんだろう
——でも若い時ってやたらと過大評価してた友達とかいませんか
チサト:あー、いるね。高校の頃とかとくに
ミホコ:うーん、あるねぇ。でも木綿子はまだその呪縛からとかれてないってことだよね。いま私たちはわかるじゃない、過大評価だったって。あの子そうでもなかったねっていうのが、まだわかってないのかなっていう
チサト:わかってくる頃だよね、30過ぎて
ミホコ:彼女にはほかに友達がいる感じがしないし、家の中だけだからそこで止まってるのかな。彼女のあの子供のためにっていう節約の仕方もショッキングだった
——作中にはその親子以外にもいくつかの親子が描かれていますが、そこはどう感じましたか
チサト:私はずっと子供をほったらかしにしてたから、ウチに籠ることはなかったですよ。なんか逆に、一緒に過ごしてあげることが少なかったので。でも私が一番共感したのはあの編集者の人かな。もし自分が離婚して子供をあっちに取られちゃってってなった時に、それ以外に自分をひきつける手段って思いつかない。私が小説の中では一番「これは私もやるかも」って思った
ミホコ:私も思った!
——最後のシーンで、子供に財布扱いされることを拒否して、抱きしめるところがあるじゃないですか。あのシーンはこの小悦の中では一番ポジティブなシーンに感じたのですが
ミホコ:彼女がちゃんと自分のやってることを理解できたから変わっていけるんだろなって気がする。もしかしたら娘との関係はもうダメかもしれないけど、彼女は彼女なりにやっていけるだろうなって思う
受動態なの、彼女
——ミホコさんは『紙の月』以外だと『対岸の彼女』なんかも読まれたそうですが、どうでしたか
ミホコ:あれは激怒した
——激怒。どのあたりに?
ミホコ:アオイとサヨコにイライラして。なんか最後はいい感じになってたけど。まずアオイの働き方が許せないのね。「あんなの社員が暴動起こすわ」って。怒ってるほうが間違ってる風に書かれてるけど、実際怒って仕方ないようなやり方を彼女はしていて。みんな離れてってサヨコが戻ってくるけど「コイツはまたやるな」って感じがある。結局、高校時代の友人を通じてしか相手を見れてないなって言う。アオイはナナコみたいに振る舞うことが気持ち良かっただけだし。サヨコも友達が欲しかっただけっていうか
——うーん、そうかあ……
ミホコ:あくまで私の読みだけどね
——ミホコさんはいまは専業主婦で子育てされてますけど、以前は働かれてたんですよね
ミホコ:うん、転勤族だから、最初の引っ越しの時にやめました
——その時に葛藤とかはありましたか
ミホコ:うーん、正直やめたかったので(笑)。ちょっともうキツイってなってたから。「新天地に行きたい!」みたいな。でも働きたくないわけではないから
——「働きたい」と「いまの仕事を続けたい」はまた別ですもんね。「この職場はキツイ!」みたいなのはあるし
ミホコ:そこはしょうがないよね(笑)
——「働く」って観点から、チサトさんは何か思うとことはありますか?
チサト:旦那さんからの尊敬、お金、そしてコウタの三つだけがリカにとってすごく大切なものとして描かれていない気がして、どこまで仕事をがんばっていたんだろうって思った。まあ好かれてはてはいたわけだから優秀ではあったんだろうけど
ミホコ:でもそれは優秀っていうか、彼女のなんでもするする受け入れちゃう人柄というか
チサト:そうそう、受動態なの、彼女。なんでそんなにってそこにすごく違和感を感じたの。旦那さんともちゃんと会話できてないから、こういうこといわれたら嫌だよっていうのが言えない。夫婦としてもあり方が崩壊してる、もう全部受身だから。
——そもそもなんで結婚したかともよくわからないですよね
ミホコ:なんか流されてる感じ
チサト:結局そこも受身だったんじゃないかな
ミホコ:進路選びもわりと流されてっていう感じだったし
——でも一方で、どこか流されきれない部分があって、だから銀行に勤めてみたりとか、コウタとかかわってみたりしたんじゃないでしょうか
ミホコ:うーん、そうねえ。流されきれない部分か
——お二人はどうですか、これまで受動態じゃなく生きてきたって言う実感はありますか?
チサト:ミホコさんは自分の思うものを手に入れてるイメージがある(笑)
ミホコ:そんなことないそんなことない!就職も大学もなりゆきだったなあって感じはする
チサト:えー、うそー
ミホコ:それこそさっき、いい加自分探しやめなよみたいなこといったけど、それは自分がそうだったからそう思うわけで。もっと素敵な自分がいるはずだってすっと思ってた
チサト:それは永遠のテーマだよね
ミホコ:でも、いないじゃん。いないことに気付よっていう
——そこなんですよね。他人のことはいくらでも受け入れてしまえるのに、自分のことだけは受け入れられない
チサト:私は結構、自由奔放に。そしたら流れ着いたのがここだったみたいな。仕事にしてもなんにしても。なんか関係あるのかわからないけど、私3人兄弟の一番下で、ほんとほったらかしだったんですよ。体操着二ヶ月でも持って帰らなくても何もいわれない、みたいな。プリントとかもランドセルに入れっぱなしだったし。でも、ちゃんと上の兄弟を見て、ああ、こうすればいいんだなみたいのはわかってたから、要領がいいというか、そういう意味では計算高いのかもしれない
——じゃあどちらかというと戦略的に生きてきたわけですね
チサト:考えたことなかったけど、そうなのかも
こんなんじゃないよ!女の友情は
——『紙の月』男女の関係だけじゃなくて女性同士の関係も描かれているじゃないですか
チサト:料理教室で再開したりとか
——そうです。嫉妬したり、あこがれたりっていう。そこは女性目線でどんな風に感じましたか
ミホコ:角田さんってあんまり女の友情を信じてない人なのかなって(笑)こんなんじゃないよ!女の友情は
チサト:こんなにバチバチはしてないよ、ってこと?
ミホコ:なんていうか、キャリアウーマン対専業主婦みたいな類型的な図式になりすぎてるっていうか。立場とか関係なくもっと女の友情は深いよ!それは登場人物たちが友達を作れないタイプの人間だよってことなのかもしれないけど……。だから小説の書き方としてはある意味では成功してるのかもしれないですけどね
——ちなみにお二人はどうやって知り合ったんですか
チサト:たまたま読書会で隣になって、ご飯食べるようになったんだよね
ミホコ:趣味もあったしね
——共有できるものがあると、関係が築きやすいですよね。『対岸の彼女』の最初のほうでアオイとナナコが「サザビー」とか「オザケン」とか、固有名をたくさんあげて会話をしてるシーンがあるじゃないですか。固有名でつながれることってあると思うんですよね。それこそ「こころ、読んだことある?」とか。現実でもそうなんだろうけど、ナナコとアオイにしても、『紙の月』の女性にたちにしても、そういうつながりが失われてしまっていますよね
ミホコ:共有できるものがないっていうのは、立場の違いとかよりさらに関係作るのが難しいかもね
チサト:男性の友情ってどんな感じなんですか?大人になってからなにか変わりました?
——うーん、それはやっぱりお互いの経済状況とか多少は気にするんじゃないですかね
チサト:たとえば同窓会とかで集まったりしたら、そういうところ意識するんですか?
——みんながそういう部分を意識してうからこそ、そこには逆に触れないようにするっていうのはあるかもしれないですね。経済状況があきらかになるような話はあんまりしない、とかね。まあでもそもそもぼくは友達があんまりいないので友情の話はわからないですよ
チサト:それは友情のハードル高いから
「ここはセラピーじゃありません」
——まあだから男の友情のことはわかんないですけど、読書会とかやればいいのになって。リカとかアオイも
チサト:だからだから
——読書会とかなかったら、どうなってたと思います
ミホコ:しんどいねえ
チサト:私は読書会をやるようになってすごい世界が広がった気がする。本を読むことって広がりのないもの、自分のなかで楽しむものだと思いこんでたから。意見交換して、みたいな世界を知れたのは良かったと思ってる。ミホコさんとかには色んなことも教えてもらえたし
——ミホコさんは転勤族というですが、ほかの土地でも読書会はしてたんですか?
チサト:自分で読書会企画してやってたりしたんでしょ?
ミホコ:そうそう。じゃないと知り合えないと思って。読書会でもしないと生きていけないなって
チサト:そういう行動力がすごいよね
——読書会って人付き合いのツールとしてかなり強力ですよね
ミホコ:それこそ社会な地位とか関係なく付き合えるよね。だって何をしてる人とか知らなくてもかまわないわけだし
チサト:本のことで集まってるわけだからね
ミホコ:でも本を語ることで自分を語ることにもなってるわけだから、そういう意味では肩書き抜きでその人のことを知れるし
——全然違った立場の人たちが集まってるほうが面白いですしね、色んな読みがあるから
チサト:いま、自分のことを語るって言ったじゃん。でも読書会とかしてると自分の人生と重ねすぎちゃって……みたいな人もたまにいると思うんだよね。だから私たちの読書会ではまず「ここはセラピーじゃありません」って
ミホコ:ひとつしか読みがないって思っちゃう人には読書会はつらいかもね
——そうかー、READはセラピーはしないんですね
チサト:それはやめとこうって最初に。でも大々的には言えないんだよね
ミホコ:でもいまのところそういう感じになってないから良かったよ。本を読みなれてる感じの人が多いからみんな冷静だよね。でもセラピーとかカウンセリングみたいなのも、全部否定すべきだとも思わないけどね。そうでないと語れないことや本ってあると思うし。私たちはあんまりそっち寄りじゃないってだけで
——逆にお二人はどんな風に小説を読むようにしてるんですか?難しい質問かもですが
チサト:私は現実逃避です。究極の現実逃避として読むので。疲れてても忘れられるじゃないですか、色んな世界にいけて。私一番好きなのが時代小説なんですよ、池波正太郎とか。それはやっぱり全然違う世界に行けるから
ミホコ:私もどっちかっていうと読書で違う世界をみたいタイプ。外国の小説とか自動的に別の世界にいけるのが面白いってとこがあるし
——でもそれだと角田さんの小説だとあんまり逃避できなさそうですよね。現実に張り付いた小説じゃないですか
チサト:そうだから、すごい疲れた。でももし理性を取っ払ったら自分もお金に手をつけちゃうのかなとか、そういう想像はできるよね
ミホコ:角田さんはすごいうまい作家さんだとは思うんだけど、私たちの読書会にはあんまり向いてない作家さんなのかなとも思うかも
——ちなみに次の読書会の予定はなんでしたっけ?
チサト:三島の『美しい星』*3。前日だよ、角田さんの。トークライブ実行委員会のUさんも準備が終わったら来てくれるって言ってたよ))
——ぼくも行きたいけど、もう東京にいるかもなあ。でもなんかREADの三人が読書会を始めるって聞いて、もっと海外文学とかやるのかなと思ったら『こころ』『美しい星』と、割と日本近代文学のクラシックをやってますよね
チサト:そのほうがやりやすいから
ミホコ:本も手に入れやすいしね
——でも最近、昭和に書かれたポップな小説がリバイバル的に評価されだしてますよね
チサト:だからだから!
——今後のREADはどんな感じでやってくんですか?
ミホコ:読書会だけじゃなくて色んなイベントとかやりたいねって話してたんですよ
——この前クリスマスにやられてたイベント*4も楽しそうでしたね、ぼくは行けなかったんですが
ミホコ:閣内も国外も、小説もノンフィクションもエッセイも、科学っぽいものまで色々もってきてもらえて楽しかったですよ
チサト:「緑」と「星」ってテーマも良かったよね。宇宙系が多かったよね、だから
ミホコ:「星」で星新一と星野源とか。そうきたか!みたいな。名前にかけるって全然思いつかなかったから(笑)
——なんかやっぱり鹿児島の読書界隈がにわかに盛り上がってきてますよね。ここで鹿児島を去るのがもったいないような気がしてきます。……今日の話の結論としてはリカもアオイも、みんあ読書会をやれってことでいいですかね?
ミホコ:彼女たちもやれと(笑)なんだろう違う価値観の人間をもっと知ったほうが良かったんだろうなって、みんな
チサト:そうそう、世界観が狭かったんだよ、結局
——それって、さっきの一個しか読みを持ってない人が読書会キツイって話とも通じる気がします
ミホコ:自分の子供たちに自分の子供のころと同じような暮らしをさせたいっていうのうも、その暮らししか知らなくて、それ以外は全部間違ってるからだと思ってるからだし。それはもったいないことだよね
——『紙の月』はあえて一人の登場人物に一つの世界観って感じで類型的に書いてる部分はありますよ。実際の人間はもっと矛盾してるじゃないですか
ミホコ:彼女たちをみんな合わせてちょうど一人になるくらいかもね
vol.2「彼女と〈家族〉と角田光代」
「子供を連れて行って良ければ」という条件でインタビューを承諾してくれたシオリさん。それはもちろんオッケーだし、娘さんのユイちゃん(4歳)はつばめ文庫さんの大ファンということなので、つばめ文庫さんをお借りしてのインタビューとなりました。お母さんであるシオリさんがインタビューに応じるあいだ、ユイちゃんはひたすらお絵描き。上に貼り付けてある絵もその時に描いてもらった一枚です。つばめ文庫さんの似顔絵ということですが、うーん、雰囲気つかめてるなぁ
取材日:2016年12月 場所:つばめ文庫*1 文/編集:ふくちあつし
過酷が好きなんですよね。一人ぼっちで
――シオリさんはこれまでどんな本を好んで読んできたんでしょうか?
シオリ:私は冒険ものっていうか、過酷な、ありえないでしょって話が好きです。例えば、北極をひたすら歩き続ける人の話とか。実際にあったノンフィクションの冒険とか探検ですね。現実とはかけ離れていて、自分ではありえないような「なんでそれするの?」って話が好き
――シオリさんって自転車でアクロバットをしていたりとか、ストイックな人ってイメージがあるので、そういうのが好きなのは、なるほどって気がします。過酷さに共感してるんじゃないですか?
シオリ:そうですね……。過酷もそうだけど、怪我は多いし、怖い。命の危険のあるし
――スリルというか、ドキドキするものが好きなんですかね
シオリ:そうですね、多分そうかも
――角田さんの作品だとそういうドキドキはないですよね
シオリ:そうですね。でもこの前読んだ『ロック母』に入っていた「緑の鼠の糞」はちょっとスリルがあるかなって。旅って感じがして好きです
――旅が出てくる作品も多いですね
シオリ:『キッドナップツアー』とかも面白かった。移動、っていうか別に目的はないけど、「とりあえず出ちゃえばなんとかなる!」っていう感じで、そこから色々なことが起きてっていう流れが読みやすくて好きでした
――シオリさん自身は旅するんですか?
シオリ:独身の頃は、無謀な旅をしてました。バックパッカーとか。高校生の頃にニュージーランドにいたんですけど、その時に学校とか色々嫌になって。バックパックに荷物を詰めて、バスに乗って、それから自転車でぶらぶら。「なんかないかな~」って、それこそ自分探しって感じ。自転車に乗る場所がたくさんあったから、そういうところを目指して行けば誰かいるだろうっていう感じで。ゲストハウスに泊まったりしながら
――角田さんの作品以外で旅ものの本とか読んだりはしますか?
シオリ:うーん、世界でヨット一周とかそういう感じの
――過酷系の(笑)
シオリ:過酷が好きなんですよね。一人ぼっちで
――「一人」がポイントなんですかね、バックパッカーもそうですが
シオリ:一人、好きですね。一人が大事。一人が一番楽ですね。3人でアメリカに旅行に行った時は色々とめんどくさかったな(笑)みんなで映画に行こうってなってる時に、「でもわたしは英語わからないから見に行きたくない」とかって子もいて。私は行きたいんだけど、「この子達を置いて一人で観に行ってもいいのかな?」って
――結局どうしたんですか?
シオリ:「外国で映画観れるのっていましかないんだよ!別に英語わかんなくても雰囲気で楽しめばいいんじゃない」とか言って強引に説得しました。超強引に(笑)
一人で階段をサーっと歩くときとかすごい楽しい
――一人が好きって、読書が好きな人には多いと思うんですよね。家族ができたりするとそれってどうなるんですかね?ぼくは結婚とかしてないからそのあたりが気になるんですが
シオリ:一人の時間欲しいですよね。一人で階段をサーっと歩くときとかすごい楽しい
――階段を……?どういうこと!?
シオリ:分かんないですよね。だって子供連れてたら一歩ずつ降りるのを待ってて、やっと下まで来たと思ったら、なにか見つけて戻ったりとかして。すごい時間かかるんだけど、一人だとサーっと降りて、パーッと登って。エレベーターとかも子供と一緒だと、階段で済ませられるところをわざわざエレベーターに行くんだけど、人がいっぱいだから一回見送ってとか普通にあるので。3倍とか時間かかります、何事も。
――自分以外の人間とペースを合わせないといけないってことですね、家族として暮らしていくには。『空中庭園』とかそういう他人と暮らすことの「ズレ」を描いている部分があると思うんですが、どんな風に読みましたか?
シオリ:最初が、家族に秘密を作りたくない言っていうお母さんの話ですよね。なにもかもオープンに家族を作りましょうっていうお母さん。それで、私が育ってきた家族は何事も謎ばかり、秘密ごとだらけの家族で。例えば、中学生の頃「あなたには会ったことのないおばあちゃんがいるのよ」みたいな
――それはお祖母ちゃんが3人いたってことじゃなくて、2人のうち1人に全然会ったことがなかったてことですか
シオリ:そうそう。死んだと思ってたし、おじいちゃんは2人だけど、おばあちゃんは1人っていう認識で、ずっと。でも中学生のときにはじめて戸籍謄本を見たときに「あ、私もう1人おばあちゃんいたんだ」っていう。まあ当たり前なんだけど(笑)でもお父さんの家族のこととかもそのときはじめて知って。色々と秘密ごとが多くて「あ、お父さんってこういう人だったんだ」っていうのを後々知ったりとか。まあ私もあえて聞かなかったんだけど。ウチの家族は全体的にコミュニケーション不足っていうか。だからなんでもオープンにはなせて仲良くやってる家族がちょっとうらやましかった。ウチは違うけど家族ってそういうもんなんだろうなって、理想みたいにしてるところがあって。でも『空中庭園』を読んだら「あ、違うんだな」って。オープンな家族を作ろうとしても結局は秘密が残ってしまう
――全員が全員のことをちょっとずつ誤解していて、結果的にそれが秘密になってしまっていますよね
シオリ:結局オープンにしても嚙み合ってないですよ
――この人たちはコミュニケーションをとってるけど、それに成功してはいないっていう
シオリ:でも、良かったのは、おばちゃんが出てきましたよね、うるさいおばあちゃん。おばあちゃんはおばあちゃんなりに、悩んで、考えてアクションを起こしてるんだなっていうのには愛情を感じました
――いま育ってきた家族の話をしてもらいましたが、シオリさんはいまお母さんとして家族を作っているところじゃないですか。そういう視点ではどう思いますか?
シオリ:理想は、なんでも話せる家族を作りたいですよね、私も。って思いますけど、やっぱりそれはぎこちないというか、無理かなっていう。今後ウチの子供たちが高校生になって気難しい年頃になったときに、なんでも話せるようになっていればグレないのかなっていう思い込みはあったんですけど、そうじゃないんですよね、きっと。うーん……。みんなそれぞれの世界がありますよね、この小説の中でも。みんな家族の知らない別の顔がそれぞれにありますよね
――この小説もそうだし、シオリさんの話を聞いていて思ったのは、一人の世界を大切にしたいっていうことと、家族とはなんでも話したいっていうのは、多くの人が両方思うんだけれど、そのバランスって難しいよなぁということです
シオリ:それぞれ別の顔があってもいいと思うし。私も子供たちのすべてを知ることを求めちゃいけないと思います。知らないこともたくさんあって、家族だけど、お互い一人の人間だっていうことを忘れちゃいけないと思いますね
やっぱりうまくいかないですよね。母親と長女はとくに
ーー『空中庭園』だけじゃなく、角田さんにはお母さんと子供の話は多いですよね。
シオリ:お母さんがすべてをコントロールしようとしてる感じ。人を自分の思うように動かそうとするのは良くないですよね
――シオリさんとお母さんの関係はどんな感じだったんですか?
シオリ:ウチの母は、あんまり何にも言わなかったですね
――角田さん的な「母」とはちょっと違ったタイプだったんですね
シオリ:でも、あまりになにも言わな過ぎるというか。……そのくせに、みたいなね。だからあまり母とはうまくいっていなくて。急に切り離されたっていう感じがしています。連絡もあんまりとってないし。角田さんの小説のすべてをコントロールしようとする母も良くないけど、「でも、なんにも言ってこなかったじゃん」っていう思いは自分の母親に対してはあります
――難しいところですね。バランスが……。角田さんの小説で言うと「ロック母」がちょっとそういう感じの母子関係ですかね
シオリ:ちょうど今朝読んできました。このお母さんは「子供がずっとお腹の中にいればよかった。出てこないで」みたいなことを言いますよね。かと思うと、その娘が妊娠して帰ってきても全然喜んでないですよね。そこはちょっとウチに似てるかも。やっぱりうまくいかないですよね。母親と長女はとくに。母親は自分にできなかったことを娘にやって欲しい。自分の分身みたいに思ってるから。生き方に対しても介入してくるっていうか
――娘の人生をまるで自分の人生かのように扱ってしまう
シオリ:そうそう。でも次女に対してはそうでもない感じですよね。角田さんの作品に出てくるのも長女が多くないですか?
――たしかに、次女の話ってパっと思いつかないですね
シオリ:大体が長女と母の話ですよね
――いまの話を聞いていたら『キッドナップツアー』も父と娘の話が描かれているけど、実は母と娘の関係も重要なんじゃないかと思えてきたんですが
シオリ:どんなお母さんなのかなっていうのは想像しました。子供の態度で、完全に馬鹿にされてるなっていうのは感じたんですよね。お父さんを見る目もそうだけど。すごくうるさく言われて育ってそうな子ですよね。これが正しい、これが間違っているって
――お父さんを見る目っていうのは、そのままお母さんがお父さんを見る目でもあるわけですよね
シオリ:その割に、お母さんはお父さんに何度も電話するけど、とち狂ったように娘を探すわけでもないですよね。そこはちょっと分からなくて。そこはお父さんといるから大丈夫って感じなのかなとか……?難しかったですよね、これ
――うーん、たしかにつかみどころのないような印象を受けました
シオリ:何回も交渉の電話をしてますよね。でもその電話の内容がなんだったのかは最後まで出てこないし
――この子にとっては秘密が最後まで残る
シオリ:この子のお母さんにも問題があるんだろうなっていうのは思いますよね。だから色々考えて、これはお母さんとお父さんが離婚するって話なのかなとか
――それはチラッと想像はしますよね
シオリ:だから交渉っていうのは親権を巡ってのものだったのかなー、とか思ったりもしたし。でもそれだったら、お母さんは、「お父さんと娘がこのまま二人で自分の知らないところに行ってしまうんじゃないか」って思いで、もっと探すとも思うので。そしたら親権問題でもないのかなって……
――お母さんは、お父さんと娘のどちらにもあまり興味がないようにも感じます
シオリ:じゃあお母さんが不倫してるのかなとも思って。新しい人と結婚するから……とか。そういう感じなのかな~……。分かんないですけど
――書かれていないってことは、逆になにかがあって、それを隠してるってことですよね
シオリ:お母さんとお父さんが一緒になれない理由がすごく気になって。背景が謎すぎますね
「子供がいるから、こういう世界が生まれてるんだな」って思う。
――いまちょうどシオリさんは子育て世代なわけですけど、角田作品で言うと『対岸の彼女』がそのくらいの年齢の女性を描いていますよね。これとかはどうでしたか?
シオリ:これもキツかったですね、読んでて。そうだ、この旦那さん、修二にすごくイラっとして、すんごい。いますよね、こういう人
――とくに角田さんの小説にはモラハラ的な夫はよく登場しますよね
シオリ:主婦の仕事を馬鹿にしはじめますよね。「たかがお前の仕事で。なんかもういいんじゃないの」みたいな。そこが、「あ、よくいるなって」感じですよね。家事も含めて、働いてることに対する尊敬がないし。作品の中ではお母さん(サヨコ)の仕事が一つ増えただけで。家事もしなくちゃいけない、仕事もしなくちゃいけない。子育ても。それで馬鹿にされてるし。ひどいですよね。『キッドナップツアー』のお父さんはそうでもないけど、出てくるお父さん大体ひどいですよ。
――『対岸の彼女』は過去と現在でストーリーが同時進行で進んでいくじゃないですか。アオイとナナコを描いた過去パートはどんな風に読みましたか?
シオリ:中学生の女の子二人が電車に飛び込んで自殺したってニュースが今年だったかな、あったんですね。それをすごく思い出して。一人だから寂しくてつらい人が自殺するんだと思ってたんですけど、私は。すごい分かり合えるお友達がいてそれでも自殺しちゃうんだって思ったんですよね、そのニュースを聞いて。なんで二人で、多分寂しくないはずなのに、どういう感じで?って。二人とも死んじゃったから分からないんですけど。『対岸の彼女』みたいにどっちかが自殺しようって言ったのかな……、とか。二人仲良くて、二人の世界があって、楽しくて。だけど現実のそれぞれの生活に戻るのがつらくて。この事件もそうだったのかなって。すごく悲しいニュースだなと思って、あれは忘れられないですね
――そういう心中もしかねないような友情というか、思春期の誰かと一体化したい気持ちってってシオリさんは共感できますか?
シオリ:いや、わからなかったな。共感はしない。「なんでだろう?」っていう
――ぼくは割とこの作品にキラキラしたものを感じちゃったりもするんですが
シオリ:青春キラキラ(笑)?そういうのは見えなかったな。私、一人好きとしてはすごいもったいないなと思っちゃった。中学生とか高校生とかの自殺って話を聞くとすごくもったいないって思っちゃう。世界が狭すぎて。学校でいじめられていて、家族の問題もあると居場所がなくなってしまって、難しいとは思うけど。でも私は居場所って自分で作ってきたような気になってるから。ここがダメだったらあっちに行けばいいや、みたいな
――旅ですよね、まさに
シオリ:まあそれで逃げて逃げて逃げて、ですけど
――アオイも旅行がきっかけで吹っ切れるわけですよね。世界が広がったって感じになる。でも結局、彼女は最後まですごく辛そうなんですが……
シオリ:彼女は子供についてなにか言ってましたよね。「自分は子供を育てる自信がない」みたいな。私もやっぱり子育てしていて、この先大きくなってちゃんと育てていけるかなって自信はないですよね、全然
――アオイとサヨコは一度離れてしまう訳ですが、その二人がもう一度関係を築きなおそうとするきっかけの一つには子供の存在がありますよね
シオリ:私はてっきり戻らないまま終わるんだと思ってました。戻らないままお互いの世界にいるんだと思ってたんだけど、「あ、戻るんだ!」って。また頑張ろうって、希望のある感じ。気持ちいい感じに終わってますよね
――やっぱり良いんですか、子供って?ざっくりした質問ですが
シオリ:友達ができるってきっかけになりますよ。本当は一人でいるのが好きだから友達とか作ろうとしないタイプなんですよ。自分からは声かけようとしないし。だけど子供がきっかけを作ってくれてるから「ああ、この会話が成り立ってるんだ」って思うことがたくさんあります。
――それを面倒に思うことはないんですか
シオリ:それよりは感謝が多いですね。なんだかんだ。こんな毎日キーキーやってますけどなんだかんだ、感謝してます。ごはん作る時も一人だと「カップラーメンでいいか」とか思うけど、「子供がいるから私はごはんつくってるんだな」とか、お母さん友達と話してたりすると「子供がいるから、こういう世界が生まれてるんだな」って思う。もちろん、すごい面倒くさい人とかにも出会いますけどね。うん、けど子供がもたらしてくれる良い環境はたくさんある気がします。サヨコも子供がいるから仕事をはじめるわけですよね
――そうか、子供はきっかけを与えてくれる存在なんですね
シオリ:でも旦那だけは変わらない(笑)私がいつも思うのが、家族って旦那と奥さんと子供じゃないといけないのかなっていう。まあこれは冗談で話してたことなんだけど、一時期すごい料理とかに凝ってた時期があって。で、友達のお母さんに、「ウチの嫁」になって欲しい、みたいな流れがあった。その人は仕事すごいするタイプで、私は家庭のことをするタイプ。だからそのお母さんが仕事に行って、わたしが家事をして、子供を育てて、そういうのも女同士でうまくいくんじゃないかなって。恋愛感情とかはまた別の話だけど、子供を育てるにあたって、そういう環境も面白いかなってね。男と女じゃなくて女性同士だと考え方も近いからうまくいくんじゃないかとふと思ったりすることがあります。やってみたら女同士っていう対立があるのかもしれないけど
〈はい、出た。やめればいい〉
――それにしても付箋めっちゃ貼ってありますね
シオリ:読んでもすぐ忘れてしまうから、付箋とかすごい張ってても読み返したあとに、「え?なんでこんなところに付箋をしてるんだろう」とか思ったり
――あ、でも付箋にメモも書き込んでるんですね
シオリ:そう、だからそれを反省して、書いとけば読み返したときの自分へのメッセージになるから
――どんなのがあるか見せてもらってもいいですか
シオリ:「ここから、手をつないでいっせいのせで飛んでみようか」には〈中学生の飛び込み自殺 あった〉とか。「ずっと移動してるのに、どこにもいけないような気がするね」には〈ツリーハウスで似たようなことあった〉。おばあちゃんが、新しいことがあると思ってどこかに行っても別に何にもないんだよって言うところ
――それ上手な使い方ですね
シオリ:あ、これ修二が奥さんが仕事始めた時のセリフで「なあ、無理ならやめたっていいんだぞ」には〈はい、出た。やめればいい〉。ハイ、出た(笑)これ結構私も言われますね、なんでも。やめればいいって。軽々しく言われた、「や、そういう問題じゃないんだよ」って。でも違う目線で見たら「やめればいいのに」って思うことなのかもしれないけど。でも自分は「なんとかしよう、なんとかしよう」ってもがいてるわけですよね。それが思いやりの言葉でもあると思うんだけど。思いやりの部分と馬鹿にしてる部分がある
――修二のそこの台詞は思いやり感ないですよね
シオリ:修二は違うよね。ほかにもありますよ。「人んちの掃除するのもいいけど、それでうちことがおざなりになるんだったら意味ないんじゃないかなあ」には〈言うよね~〉って書いてありますね。仕事して家事がおろそかになると旦那ってこういうこというんだろうなぁ
――シオリさんはお子さんできてからは働いてないんでしたっけ
シオリ:まだないです。でも、もしはじめたら、たぶんウチのなかはぐちゃぐちゃになるとおもうんですよね。だから家のことをちゃんとしないと仕事できないんだな~って。私が仕事したいって言ったら「家のことちゃんとできるの?」って言われそう
――仕事したいとは思いますか?
シオリ:ちょっとは稼ぎたいですね。旦那のお金でお買い物してるって感覚があるから。家事はお給料発生しないし……。「私は家事をしてるんだから、これを買う権利はある」って思うんだけど
――「逃げ恥」じゃないけど、家事も労働ですからね。『対岸の彼女』でも人の家を掃除してお金がもらえるっていうのは、言い換えれば家を掃除したらお金を払えよっていうこともできるわけだし。
家族のカタチっていうことで言うと「ツリーハウス」じゃないでしょうか。女装した父と男装した母らしき人物をみかけるエピソードなんか、そういった「男女一対」っていう両親の在り方を揺さぶってるようにも読めますね
シオリ:外国だと結構、女性同士男性同士で結婚して養子を迎えていたりしますよね。結婚してなくて子供がいる人も。私の外国の知り合いにもお父さんとお母さんとその二人の子供で、どう見ても家族なんだけど結婚してない。もちろん名前も別々で。日本だとあんまりないけど。『ツリーハウス』の家族はそれこそ外国でスタートしたから、「こうじゃなきゃいけない」ってのがないですよね。満州の食堂にかくまってもらった経験があるから
一線を、超えられたかな?
――今日もってきてもらった本だと『12星座の恋物語』って読んでないんですけどどうでした?
シオリ:星座ごとに話があって、私は牡羊座なんだけど、ちょっと苦手だった
つばめ:この本、俺の周りだと絶賛する人とそうでない人が半々くらいに別れてる感じだよ*2
シオリ:牡羊座のお話の女の人の雰囲気が読み取れなかった。「アタシ、こんなんじゃねーよ」って(笑)鏡リュウジさんの解説だと牡羊座女は「単純女。シンプルが好き」って書いてあって、私そうなの?
――いや、わかんないわかんない(笑)
シオリ:話としては、愚痴ばっか言ってる飲み会に主人公の牡羊座の女の子が参加して、「つまんない」って言って帰っちゃう
――え、でもシオリさんもそういうとこありそうじゃないですか!
シオリ:たぶんそういう感じだよね、私(笑)
――当たってるじゃないですか!
シオリ:いま言ってて「私じゃん」って思った(笑)私もつまんないなって思ったらさって帰るタイプです。「私、用事あるからかえるね~」って帰っちゃうかも。自分の好きなことする
――興味ないけど場を盛り上げるために頑張るとかそういうことはしなさそうですよね
シオリ:そういうのはないです
つばめ:でもカラオケは好きでしょ?
――カラオケはまた違くないですか(笑)
シオリ:でも、この前みんなでカラオケ行ったのは結構勇気出して行ったつもりです。楽しかったけど誘われて「どうしよう……」ってすごい悩みました。「自分を出すかな~、どうしようかな」って
――カラオケはなんかちょっと一線を越える感じありますよね
シオリ:一線を、超えられたかな?
つばめ:越えてますよ
――つばめさん、そういうのはっきり言うところ、ホント男前ですよね
シオリ:ハハハハハ(笑)
――さっき料理好きって話をされてましたけど『彼女の献立帖』はどうでした?
シオリ:マツタケご飯の話とか好き。作ったことない料理がたくさんあって、作ってみたくなった。まだ作ってないけど。マツタケをあんなふうにドーンっと買ってみたいなと思いました。角田さんの料理の病者だとやっぱり「緑の鼠の糞」のアジア系のご飯?の書き方が、すごく食べたくなりました。あっちのほう旅してるから書けるのかな。すごく楽しそうに書いてて、すごく好き
――分かります。うすいビールを飲みながらガンガン食べたくなりました
シオリ:自分の知らない世界がたくさん出てくると、楽しくなりますね
vol.1「彼女と〈仕事〉と角田光代」
取材日:2016年11月 場所:居酒屋「八兆」*1 文/編集:ふくちあつし
女であるってだけで、感じなくて良い引け目をたくさん感じてしまっているじゃないですか
――ミズノさんは角田光代さんの大ファンということですが、はじめて角田光代さんの作品を読んだのはいつ頃ですか?
ミズノ:えーと、今年の春くらいなのかな。角田さんが飼い猫のトトちゃんとのことを書いたエッセイ『今日も一日きみを見ていた』を読んだのが最初です。猫も人間の描写もその通りですごいと思って
――結構最近なんですね!そこから短期間で集中してガッツリと
ミズノ:そうそう、短期間でガッと
つばめ:すごい集中力!
――で、今まで読んだ中で一番好きなのが今日も持ってきてもらっている……
ミズノ:『私のなかの彼女』です
――どんなところに惹かれましたか?
ミズノ:いま「男女共同参画社会」っていうのをライフワークにしたいと考えていて、一昨年くらいから勉強をはじめたんですよね。でも「男女共同参画」って知識として理解するっていうよりも、実感として自分のなかに落とし込んでいくことが大事な分野だと思うようになって。そんなことを考えているときに『私のなかの彼女』を読んだらすごくしっくりきたんです
――主人公に共感した?
ミズノ:そうですね。あぁ、わかるなって。主人公の和歌は女であるってだけで、感じなくて良い引け目をたくさん感じてしまっているじゃないですか。仕事をすればするほど引け目を感じてしまうっていうか。彼女のおばあちゃんにしてもそうだったのかもしれないけれど。そういうところに、すごく共感しました。私自身もっと早く「男女共同参画」的な考え方を知っていたら、傷つかずにすんだり、逆に人を傷つけずにすんだりしたのかなっていう思いがあったので
――『私のなかの彼女』では「表現者」として張り合う男女の姿が描かれていましたよね。一方でミズノさんは鹿児島県内ではけっこう大きな企業で働かれていて、それもある種の戦いを勝ち抜いて得たポジションなわけじゃないですか。そのなかでやっかみというか、足を引っ張られたなと感じることはありましたか?
ミズノ:うーん、やっかみかぁ。受かってすぐには特に感じなかったかな。でもやっぱり働き出してみると、女性の方が簡単な仕事を割り振られているなってことには気づきましたね。「子どもを生んだ人のキャリアはこんなものか」「バリバリ働いてる人でもあの程度か」っていうのがすぐ見えて
――それはモチベーション下がりそうですね
ミズノ:それで「あ、これは結婚して子どもを産んだらこんなことになるんだ」って思って。バリバリ働いて、結婚もして、子育てもして全部できればいいと思ってたけど、実際にはなかなかそういう人はいなくて。子育てをしながら仕事はホドホドみたいな女性が多いのを見て、なんかそれはちがうなあと。
結論みたいになっちゃうけど、それって本来そうであっちゃいけないんだよね、男も女も。同じ人間だから。子育てもして、自分のやりたいことをして、自分の能力に見合った仕事を与えられるってのが当然与えられるべき権利だったはずなんだけど、それが男の人だけに与えられるって社会の仕組みがあったと思うんです。私自身も「そういうもんなんだろうな」って受け入れてしまっていたんだけどね
――受け入れてしまってたんですね
ミズノ:そう、受け入れちゃってたの!受け入れてたのが20代だった。一昨年「男女共同参画」っていうのを単なる言葉じゃなくて、実感として身に着けるまでは、やっぱりそういうものだと思ってたから
エアロスミスとかね
――「男女共同参画」の話から一端、もう少しプライベートな領域のお話しを聞かせてもらってもいいですか。『私のなかの彼女』では、大学生の和歌が恋人の仙太郎を通じて価値観を作り上げていくじゃないですか。こういうタイプのカップルって現実にも結構いる気がするんですが、ミズノさんはどうでしたか?
ミズノ:そういうタイプでしたね(笑)大学生のときの彼が車を好きだったから、私もすごいくわしくなった。それで運転もできるようになったっていう。おかげさまで。
――つばめ文庫さんで『島へ免許を取りに行く』の読書会*2をしたときにその話したらめちゃくちゃ盛り上がったのに!
ミズノ:あとはバンドとか。エアロスミスとかね(笑)
――じゃあエアロスミスをかけながらドライブするみたいな大学生だったんですね
ミズノ:うん、まあそんな感じでした(笑)恥ずかしいな、なんか
――その頃から小説とかたくさん読んでたんですか?
ミズノ:いやいや全然ですよ
――生まれも鹿児島ですか?
ミズノ:そうそう、市内だよ
つばめ:だからもうコテコテの鹿児島っ子なんだ
ミズノ:です!
――これ、めちゃくちゃ序盤に聞いとくべき質問でしたね
ミズノ:あははは
――構成ができてない(笑)
ミズノ:ふふふ、いきなり(笑)
――いきなりトップスピードで入ってしまった
つばめ:本題から入っちゃった。5速発進!めちゃ重いよ!
――ダメなインタビュアーですみません(笑)
「そうか、私が悪いんじゃないんだ」って
――えーと、じゃあ大学で勉強しつつ、彼氏さんと遊んだりっていう大学生活を過ごして社会人になったと。それで、キャリアの悩みとかはありながらも、一度は結婚されてるんですよね
ミズノ:そういうのが普通だと思ってたからね
――結婚したのがいくつのときですか?
ミズノ:25のときですね
――若い!それはエアロスミスの人と……?
ミズノ:ふふ、うん、そうですね。だからやっぱり大きな影響を受けた人なんですよ
――就活のときとかどうでしたか?さっきの足を引っ張りあってしまうという話じゃないですが
ミズノ:うーん、私がいまの会社に入れたことは普通に喜んでくれましたよ。でも彼はその年は就職できなかったんですよね
――仙太郎と和歌っぽい
ミズノ:まあ彼が就活浪人したのはそれなりの理由があって。なんでそこを受けたのっていう、ほとんど冗談みたいな感じで受けてたから。だからちゃんと翌年には就職が決まって。同じ業界だったんだけど
――同じ業界だったんだ。そこも和歌と仙太郎に少し似た関係ですね。期間としてはどれくらい結婚してたんですか?
ミズノ:えーと、9年かな
――長いですね!というか、じゃあ別れたの最近なんじゃ……
ミズノ:そうなの、だから一昨年かな
――けっこう最近じゃないですか!この話、もう少し聞いても大丈夫ですか?
ミズノ:もう大丈夫。去年とかだったらだとちょっと無理だったけど(笑)えっと、まず私が単身赴任することになってしまって。それがお互いにすごいショックで。それでやっぱり別々に過ごしているとそれなりにすれ違いが生まれてしまって。私は慣れない土地で、頑張らないと仕事にならないから、なんとか慣れるように努力してたんだけど、そうしているとそのうち楽しくなってくるわけですよ。というか楽しくなるように努力をしてたの。でも、どうもそれが気に食わなかったみたいで
――自分の知らないところで楽しそうにしているのがムカつくみたいな
つばめ:木綿のハンカチーフみたいだ。逆パターンの
――『私のなかの彼女』でも自分の彼女が自分の知らないところで頭角を現わしたり、注目されていたりすると、嫉妬せざるを得ないみたいな男の感情が描かれていますよね。そういうのもあったんですかね
ミズノ:まあ口には出さなかったけどね。分かんないな、それは
――仙太郎も決して口には出さないですよね。ただ気に食わなさそうなのがなんとなく伝わってくるっていう
ミズノ:彼も仕事がうまくいってないときだったから余計っていうのはあるかも。だから、それはほんとに申し訳なかった。一緒にいればその辛さが分かったんだけど、離れていたから分かってあげられなかった。私もはじめての土地で一生懸命生きてかなきゃってところだったから。それで単身赴任から帰ってきてすぐ離婚したのね。すごく残念だったんだけど
――先日の読書会は『くまちゃん』でしたけど、じゃあまさに「乙女相談室」は……
ミズノ:なのよ、だから!*5「乙女相談室」の人の気持ちはわかるなって
つばめ:そういうことだったのね。なんかそんな風に話してたから、わかる気がするって
――ほとんど同い年くらいですよね
ミズノ:そうそう!だから「股裂きの刑」とかすっっっごくよくわかるんですよ。「まさにそのとおり!」みたいな。もうほとんどアイデンティティの一部っていうかね。20代のころから一緒にいたから、もう確立されちゃってるの。それを剝がされるわけだから、ほんとに股裂きの刑ですよ。「メリメリメリ!」「アタタタタタタッ」っていう(笑)
――それは共感しますね
ミズノ:それで私も、「あっさり子供を作ってればよかったのかな」とか、「あのときキャリアにこだわらなければ良かったのかな」とか、「単身赴任しなければ良かったのかな」とか、自分を責めてしまっていたのね。でも「男女共同参画」っていう考えに出会ったときに、そもそも女性がやりたいことをできない社会っておかしいんだって気付けて。「そうか、私が悪いんじゃないんだ」って
――なるほど
ミズノ:でもそうは言ったけど、私は何かに依存して生きないとダメな人間だったんですよ
――それは今までですか?今は?
ミズノ:今までね。でも今は、依存してたから辛かったんだってことが分かって、依存しないで生きてくことができるようになりました
「これが当たり前」って価値観でもって「なんでまた」ってやられると辛いじゃないですか
――もしかして、本を積極的に読むようになったのも、そういう辛かった時期からだったりしますか?
ミズノ:そうそう!
つばめ:『今日も一日きみを見ていた』とかもその流れ?
ミズノ:『今日も一日きみを見ていた』はね、猫が元々好きだったんだけど。それこそ猫も、彼が好きだったんだけどね、影響された。元々は犬派でした(笑)
――そのころに読んで救われた本とかありますか?本じゃなくても構わないですが
ミズノ:えーとねぇ、江原啓之さんとかスピリチュアルの本が好きだった。あの人の本が一番救ってくれたかもしれない(笑)
――あー、ちょっと意外だけど、でもそういうもんなのかもしれないですね、そういうときって
ミズノ:なんかやっぱり、占いとかに頼りがちになるじゃないですか
――たしかにそうかもですね。鹿児島に帰ってこないで、単身赴任先に移住しちゃうって選択肢とかはなかったんですか?
ミズノ:私もほんとに向こうで暮らそうかなと思って。でもそれを知り合いに相談したら「人生で大事な決断は一度に2つするな」って言われたんですよ
――おお、名言ですね!
ミズノ:うん、周りの人には恵まれてます、おかげさまで。離婚するときは、私も色々な固定観念にとらわれてたから、「離婚だー。もうダメだー。ヤダなー。どうしようー」って悩んでて。そのときの職場の上司が女性だったんだけど、その人に「私、離婚するかもしれません」言ったんですよ。一応上司だから、報告として。その上司がなんて言ったかっていうと、出張の車の中でその話をしたら、「あっそう。……でさぁ」みたいな感じで言ったの
つばめ:一言で終わったんだ
ミズノ:そう!「あれー??」って。もっとなんかないんですかっていう
つばめ:それはすごいね
ミズノ:それで、そしたら「え、離婚しようがしまいがあなたはあなただし」っていう感じで。後から知ったんだけど、その上司は私に「男女共同参画」のことを教えてくれた人の一番弟子だったんですよ。もうだからサラッと
つばめ:「それはおかしいことじゃないでしょ」って言う感じなのかなあ
ミズノ:そうそう。それぐらいの感じで。「なんでまた」っていうような反応になるかなと思ってたから。だからそれがすごくうれしかったの。「あ、深刻なことじゃないんだって」
――あ、ぼくも仕事辞めた時とかそんな感じだったかも
ミズノ:「これが当たり前」って価値観でもって「なんでまた」ってやられると辛いじゃないですか。辞めても辞めなくてもあなたはあなたってことだったら楽じゃないですか
――そうっすよねえ
つばめ:確かにそうだなぁ。仕事の話になっちゃうけど、おれもそう言っちゃうよ。「あ、そう」で終わっちゃう
――「あ、そう。良かったじゃん好きなことやれば」みたいな
つばめ:やってるから、おれが(笑)
ミズノ:ふふふふふ。その方がありがたいよね
小説で救われたとすれば「あ、いろんな人がいるんだ」っていう。私なんてまだまだ大丈夫って思えるもんね
――さっきの質問の繰り返しっぽくなっちゃうんですが、小説に限定して、この作品に救われたっていうものが、もしあったら教えてください
ミズノ:うーん、なんだろう……。そう考えると小説を読んで救われたって感じたことってあんまないかもなあ
つばめ:あ、そうなんだ。小説は好きだし共感売る部分もあるけれど、救われたのはもっと具体的なアドバイスがあるもののほうが?
ミズノ:うーん、小説で救われたとすれば「あ、いろんな人がいるんだ」っていう。奇想天外な人が描かれてるじゃないですか。だから私もすごい大変だったけど、普通だなって思えたみたいな
――まさに角田光代さんの作品ですね。さまざまな悩みを抱えた人物が描かれていて共感的に読める
ミズノ:そいういう意味では救われてるのかも、角田さんの小説に
――共感できるって一つの救いでもありますよね。自分だけじゃないんだっていう
つばめ:だからファンになってるのかもね
ミズノ:かもしれない。私なんてまだまだ大丈夫って思えるもんね
子供がいない人なんていないじゃんか
――『私のなかの彼女』の話に戻るんですが、作中で和歌は「小説を書く」っていう軸みたいなものを見つけたじゃないですか。それでいうとミズノさんはどうですか。「これでいくぜ!」みたいなものっていま自分の中にありますか?
ミズノ:いまの仕事は色々なことができるから、すごい私の性格にあってると思うし、とてもいい仕事だなって思ってるんですよ。もちろんそれはそれとして、ライフワークとしての「男女共同参画社会」。あと人権にもかかわっていきたいなって思ってますね
――人権ですか
ミズノ:人権って同和問題とか障碍者とか高齢者とか、人に対する人権は勉強するじゃないですか、知識として。でも意外とみんな自分の人権っていうのをあんまり考えてなくて。それはもちろん利己的っていうんじゃなくて、「私は私だからそれで大丈夫なんだ」みたいな感覚のことで。もっと自己肯定感を大事にしていかなきゃいけないんじゃないかなと思っていて
――自己肯定感、大事ですね
ミズノ:私自身がすごく自分を肯定できたことがほんと最近あって。ウチの近くの小学校で運動会の練習をしてたんです。そしたら子供がすごく少なくてね。「これが少子化か!」思ったんですよ
――実感として腑に落ちたんですね
ミズノ:そうそう。でもそれと同時に頭のどこかで「お前も産め!」っていう声がすごい聞こえたんですよ。「だったらお前も産め」って言われたような気がして。だからどこかで子供を産んでいないことに引け目を感じている自分がいるんだなって思って。それで、そのあと友達と会ったときにその話をしたんですよ。その子は2人子供がいるんだけど、子供を産んだときに親から「子は授かりものだ」って言われたって話をしてくれて。それは「天からの授かりもの」っていう意味じゃなくて、自分の子であって自分の子じゃないっていう考え方なのね。みんなの子なんだよっていう。あなたの子でもあるけど、あなたの子ではなくて
つばめ:もっと社会的な
ミズノ:そう。社会的なものとして授かった子だから、だからみんなで育てていかないといけないよっていう考え方で。それで「そういうことか!」と思って。私は子供を産まなくても、ほかの子のためにできることはいくらでもあるし、子供を育てることはできるんだって、最近気づいたんです。だから、子供がいない人なんていないじゃんか、って。
つばめ:そうだよねぇ。みんなで育てるって考えたら、そうだよ
ミズノ:それで、そういう自己肯定的なものとしての人権意識を、子供たち知識として教えるんじゃなくてワークショップを通じて実感的に知ってもらおうっていう活動があって。私も来年以降は勉強をして、子供たちが自己肯定感を高めることのお手伝いをボランティアとしてやっていけたらいいなと思ってます